広告といえば、これまでの大量生産、大量消費社会のシンボル。しかしこの分野でも、最近は企業のCSR広告をはじめとしてソーシャル、あるいは環境にフォーカスしたコミュニケーションが増えています。欧米では、こうした「グリーンな」コミュニケーションに特化したエージェンシーが登場し、「グリーンエージェンシー」として注目を集めています。広告/広報だけを扱う場合から、事業内容まで踏み込んで企業をまるごとグリーンに変えていく、という場合までいろいろですが、今回はロンドンの代表的なグリーンエージェンシーを4つ、リポートします。
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DEMOSのスローガンは「ビルディング・エブリデイ・デモクラシー(building everyday democracy)」。自由でパワフルな市民社会の実現のために、政策や政治分野に焦点をあてたシンクタンクです。人々をエンパワーし、市民自らがよりよい社会を築くために、活動を行っています。
私たちにDEMOSについて説明してくれたのは、リサーチャーのジョナサン・バードウェルさんとリサーチ・ディレクターのジュリア・マーゴさんです。
DEMOSのロンドンオフィスで働いているのは約20名のメンバーと、8〜9名のインターン。メンバーのバックグラウンドは、コンサルタント、アカデミックなリサーチャー、広告のクリエーティブなど。業務範囲はメディア、PR、プロジェクトの企画、コンサルタント・・・と多岐にわたります。DEMOSのメンバーは、得意分野はもちろんありますが、全員がリサーチや分析、メディアなど必要な専門知識を持っており、全てに対応可能。そのためのトレーニングメニューも自分たちでつくっているそうです。
DEMOSのプロジェクトにはいくつかの種類がありますが、全て企業/行政とのパートナーシップによって成り立っています。
まずひとつ目は、シンクタンク業務。クライアント(企業/行政)に対して、意思決定・政策立案のリサーチと分析を行います。ただし、DEMOSには「よりよい社会のために」という理念があるので、特定のクライアントの利益追求ために働くということではなく、パートナーシップに基づいて社会のため、人々のためにリサーチを行います。クライアントはその結果を、意思決定や政策の立案・改善の参考にしたり、パブリシティや、ネットワークの強化のために使用します。全体におけるこの業務の占める割合は低いとのことでした。
ふたつ目のパートナーシップのあり方として、「パートナーシップ・プログラム」というのがあります。プログラムありきでパートナーシップを結んだ企業・団体がいくつか集まる、というやり方です。例えば、「市民権について考えるプログラム」では、問題に関して市民パネリストも含め意見を交換しあいました。こうしたプログラムに参加することによって、参加企業/団体は知見を深め、意思決定や政策立案に役立てることができます。
そして3つ目が、自ら方向性をもってプロジェクトを立ち上げ、それをサポートしてくれる企業を募る、というやり方です。DEMOSは「社会を変える」というミッションをもったシンクタンクなので、この分野に最も力を入れています。プロジェクトの期間は8〜12ヶ月ほどで、投資銀行や、大手流通などなどが協賛しています。参加企業/団体にとって直接的な効果が分かりにくいため、プロジェクトをサポートし続けてもらうことが難しいこともありますが、目指す社会の実現のために、プロジェクトのパブリシティを行ったり、世の中に広く認知してもらえるようにしたりしているそうです。
DEMOSのすべてのプログラムは、健全な社会形成を目指して、以下の4つのテーマによって特徴づけられています。
「セキュリティ」をテーマとした一例として、昨年政府に対して行った、テロや災害などあらゆる事態を想定した安全確保を考察するプログラムがあります。既存のセキュリティシステムの、全てのプロセスについてヒアリング、リサーチ、レビューを行い、危機別のシナリオや、テロなどの緊急事態にも早急に対応できうる新しいセキュリティシステムをプランニングしました。セミナーやカンファレンスにおいて、行政に報告し、改善を提言しました。
そのほか、企業の社会的取り組みをリサーチしてフィードバックしたり、イギリス国内における社会的諸問題(例:犯罪やアルコール依存症の問題など)を調査し、それらに対して各企業がどのような行動を起こせるか、社会的責任を果たしていくべきか、ということも考え提案しています。様々な企業/団体とパートナーシップを築きながら、社会を改善していく方法を模索しています。
こうしたプロジェクトを実施できるのは、約20年にわたるDEMOSの歴史のなかでたくさんの企業や財団などとの強くて長い関係をつくってきたから、とのことでした。
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私たちがオフィスを訪問してまず目にとまったのが、日本でも人気のインテリア・雑貨ブランドCath Kidston(キャス・キッドソン)とTESCO(テスコ、英国の大きなスーパーマーケットチェーン)とのコラボレーションによるショッピングバッグです。昨年日本だけでなく世界中のプレスでかなり話題になったので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。説明してくれたのはCEOのダイアナ・ヴェルデ・ニエトさんです。
世界中で話題になったこのバッグは、ただかっこいいから、という理由だけで作られたわけではありません。レジ袋の使用削減という環境保全の観点に加え、人々が健康であり幸福で満たされている状態(well being)を実現することも狙いのひとつです。このバッグをつくるにあたっては、ライフサイクル、つまり原材料調達から流通までの、マーケティングコミュニケーションを含む一連の流れの中で環境負荷を下げることが考慮されています。回収したペットボトル6本分を原材料として使用、製造工程でも通常より少ない縫製を追求、印刷はSOY INK、サプライチェーンも短くしました。そのために、リサイクルボトルを扱う適正な企業から、適正な縫製工場、無駄を省いた流通まで、すべてにおいて最善の道のりを提案し、実現しました。バッグは不要になったらTESCOに送り返すこともでき、また他の生地へと生まれ変わらせることもできます。社会的な面についても、マリクレール誌とのコラボレーションにより、このバッグの全利益が乳ガン基金へ募金される仕組みになっています。ユーザーはバッグを買うことで自然にチャリティーにも協力できるのです。人々が、実際にチャリティーに参加し、「何かいいことをしている」と感じることも well beingのひとつと考えているからです。実用面でも、丈夫さを保ちつつも軽量化し、汚れても洗うことができる、など使いやすさにもこだわったつくりになっています。また価格も 3.50ポンドという安さで、経済的な面でも優れています。つまり、360度、全ての観点に配慮して作られた製品なのです。
「このように、Clownfishは、社会的な意味、環境的な意味、経済的な意味のすべてを追求しています。このうちのどれかひとつでも欠けてしまったら、サステナビリティの実現は不可能になるからです。ただ寄付をする、それだけではサステナブルとはいえないのです」とダイアナさんは言います。
Clownfishのロンドンオフィスでは環境テクノロジー、環境デザイン、マーケティングコミュニケーションなどをバックグラウンドにした30名ほどのメンバーが働いていて、現在はニューヨーク、上海など世界中にネットワークを広げています。
前述のショッピングバックの事例のように、Clownfishは、サステナブルなコミュニケーション・コンサルタントとして、あらゆる側面からクライアントに提案しています。そしてこのショッピングバッグのプロジェクトでは、TESCOとマリクレール誌、Cath Kidston、工場や社会・人々を繋ぐことに成功しました。そのほかにも、ユニリーバ、ナイキ、コカ・コーラなどのクライアントに対し、サステナビリティを生み出すエキスパートとして関わっています。
人々(People)、地球(Planet)、利益(Profit)の3つのPがClownfishのキーワード。消費者ニーズの汲み取り、ブランド価値や企業評価の向上から、従業員の労働意欲向上、ボトムラインの改善、経費削減に至るまで・・・ストラテジーからコミュニケーションのあらゆる段階において、サステナビリテイ実現のための価値を提案しています。
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CURBについて、創設者のアンソニー・ガンジュウさんに話を聞きました。CURB は自然のマテリアル(太陽光、砂、土、水・・・)を利用して、少ない環境負荷で効果的な広告を作り出す「ナチュラルメディア・カンパニー」。クライアントに、そして環境にダメージを与えることなく、世の中にインパクトを与える優れた「ナチュラルな」マーケティングを提供することを標榜しています。
設立されたのは2008年9月。まだ1年も経っていませんが、完成度の高さは世界的にも有名で、韓国や日本の雑誌にも掲載されたことがあるそうです。また彼らの活動は、BBCでも取り上げられました。
CURBの作品には、いくつかの種類があります。
上記のCURBホームページに掲載されている作品たちは、必見です。
Clean Advertising
壁や歩道にステンシルの型を当てて部分的に汚れを取り除き、元々の色と汚れた現在の色との際立った対比でデザインを浮かび上がらせます。洗浄には雨水を貯めた水を使用。
Logrow(芝)
芝生を利用してブランドロゴを制作。
Sand Sculpture(砂)
砂を利用し制作したバッキンガム宮殿は、中の人が今にも動き出しそうな精密さで、見に来たエリザベス女王も喜んでおられたそうです。
Snow Tagging(雪)
雪に型を押し付けてマーキングするというシンプルな、しかし斬新な手法。今年2月の大雪のときに実施したエクストリームスポーツ専門放送局のための作品では、広告費に換算して5000万円以上のパブリシティ効果がありました。
Solar Art(太陽光)
アーティストが虫眼鏡ひとつで木製の板に焼き付けていきます。信じられないほど緻密なビジュアルが出来上がります。
H2 Show(水)
コンピュータ制御により、上から降ってくる水の量をコントロールし、それによって文字や模様を描きます。
Crop Ad
広い畑に、ミステリーサークルのようにマークを制作。直径は120mに及ぶものまで(巨大なキティちゃんなど)あり、「次は人工衛星からじゃないと見えないものにも挑戦したい」(アンソニーさん)。
すべての作品は、一流のアーティストたちとチームを組み制作しています。しかしなぜ、彼らは、自然のマテリアルにこだわっているのでしょうか。アンソニーさんはグリーンマーケティングや、環境コミュニケーションを考える際に、そのメッセージを伝えるメディアそのものも自然であるべきと、シンプルに考えたと言います。作品に使用したマテリアルは、植物などであればそのまま残すこともできますし、雪や水を使った作品は自然に戻ります。また、自然素材を用いてつくられていることで、人々に強いインパクトを与え、例えば写真を撮って友達にメールを送ったり、口コミでもその話題は広がります。また、そのクオリティの高さから、出版物になったりしたときにも、より大きなインパクトを残します。こうした手法は、環境にとっても、クライアントにとってもよい方法であると彼らは考えています。
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BASHのあるショーリッジという地区は、ロンドンの中でも若いアーティストや美術館、クリエイティブブティックなどが集まった場所。BASHは英国のエンターテインメント産業にエコロジカルな方向性を紹介している、クリエイティブ・エージェンシー&イベント・プロダクションで、倫理的なクリエイティビティとエコ・エンターテインメントを標榜しています。
取材の行われたBASHのあるビルの屋上は"roof project"として庭園になっていました。
BASH のメンバーは、仕事の合間にここへきて、緑に触れたりのんびりビールを飲んだりします。ちょっとしたパーティーや、時にはライブまで行われるそうです。そんなリラックスしたムードの中、クリエイティブ・ディレクターのダニエル・シルバーさんと、オペレーション・ディレクターのエリカ・プロブストさんが BASHについて話してくれました。
BASH は3年前に、ジョゼフ・オリバーさんによって設立されました。ジョゼフさんは「ロンドン・リーダーズ」プログラムのリーダーの1人に選出されており、カルチャー、政治、政府のリーダーと協働し、メディアにも働きかけ、ロンドンにサステナビリティを導入しています。またBASHはカルチュアル・セクター(図書館、博物館、文書館)とともに活動を行っている英国で最初の団体です。BASHのクライアント・参加者・メンバーはアーティスト、ファッションデザイナー、ミュージシャン、学生などであると同時に、企業やNGO、政府機関などとも一緒に働きます。アーティストと環境に関する両方の知見をもち、双方をクロスオーバーに結んでいます。
それから、BASHのもうひとつの特徴は、ロンドンにおけるサステナビリティ・ネットワークを構築していることです。サステナビリティを考える環境づくり、またサステナビリティの実現のために、アーティストや企業を繋いでいるのです。
BASHでは、特に16歳〜30代前半の若い人々に向けて、サステナブルな文化を浸透させるようなイベントやキャンペーンを企画しています。
BASHは下記の3つの分野で、あるいは3つを組み合わせて効果的なプロジェクトを提案・実施しています。
他には、オフィスの入っているビルの運営も行っています。1階がクラブ(その名もBlack Lotus Karate Club)になっていて、オーガニックフード&ドリンクを楽しめる・・・そんな素敵な場所もプロデュースしています。
彼らが行っている様々なプロジェクトのうち、一例を紹介してもらいました。
「現在バービカン・センターで行っているエキシビション"Radical Nature"の管理・運営にも携わっています(バービカン・センターとは、シティ・オブ・ロンドンにある、ヨーロッパ最大の複合文化施設です)。
まず、エキシビションの告知キャンペーンのために50人のダンサー、パントマイマーに若手アーティストがデザインした木の衣装を着てもらいました。50人のパフォーマーたちそれぞれが木となり、時々立ち止まって森となったり、フォーメーションを変えながら歩いていきます。世界最大の金融街であるシティで朝 8時半から行ったので、通勤途中の人々がたくさん目にすることとなりました。それからセントポール、ピカデリーサーカスなどといった、人々の目に多く触れるルートや時間帯を計算し、歩いてもらいました。この様子は写真やビデオでリアルタイムに次々とWebにアップされ、Web上のディスカッションシステムで、ロンドンの木や自然に関するディベートが巻き起こり、大きな話題になりました。エキシビションが終了する午後6時頃には、バービカンの著名なキュレーターなどが、環境に関する話やこのプロジェクトの説明を行いました。
これは、エキシビションの宣伝のために行ったものですが、同時に、人々が環境問題を考えるきっかけにもなりました。
単に、環境に配慮した手法で広告を行うとか、エコプロダクツを使用する、というだけではなく、人々が環境に関して直接考えられるように、問題を提起できるように考えています。そのためのひとつの方法として、社会の盛り上がりをつくるために、SNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)なども活用しています」
最後に。BASHの"roof project"には実はもうひとつミッションがありました。2012年ロンドンオリンピックのメディアセンターの緑の屋根建設のために、堆肥(PAS100)と資材との相互作用、植物への影響などを科学的に調査しているのだそうです。
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世界のソーシャルコミュニケーション最前線@カンヌ国際広告祭 http://www.canneslions.com/
今年も6/21〜27の1週間、第56回カンヌ国際広告祭が開催されました。今年も目立っていたソーシャル・環境系のキャンペーンをいくつかリポートします。
●TRILLION DOLLAR CAMPAIGN(ジンバブエ)
http://work.canneslions.com/outdoor/
http://work.canneslions.com/titanium/?award=2
http://work.canneslions.com/media/?award=2
1兆ドル、という名前に驚いてよくみると、なんとポスターが何百枚、何千枚ものお札でできていた!という衝撃的なキャンペーン。キャンペーンのスポンサーはTHE ZIMBABWEANという新聞社。ムガベ大統領政権が選挙を不正に操作したり、野党を解体したり、貧困や災害、経済の崩壊の原因となっているということをリポートし続け、そのため国外に追放されたこの新聞社が発行している新聞は、ムガベ政権により55%もの贅沢品税をかけられています(あたかも言論の自由は高価、というように)。この新聞をジンバブエの人々の手に取り戻すには資金援助が必要であり、そのためにはジンバブエの外で認知を高め売上を伸ばさなければ、ということでこのキャンペーンが実施されました。
キャンペーン開始数時間でプレスの取材を受け、2日後にはTV、ラジオで全国に紹介され、インターネットで世界に広がり、New York Times site、Yahoo News、the Huffington Postなど何百ものウェブサイトやブログで紹介されました。
インフレの世界記録の症状である1兆ジンバブエドルの札束こそ、ジンバブエ崩壊のシンボル。一塊のパンも、ましてや広告など買えない1兆ドル・・・逆にその1兆ドルを広告媒体にしたらどうだろう。というのがこのキャンペーンです。
クリエイティブ・ディレクターに会場で少しだけ話が聞けました。「逮捕される、とか思わなかったんですか?」「もちろん危険は覚悟していました。すべてのキャンペーンはゲリラ的に、4日間でやりきったんです。そうしたら、世論が味方についてくれました。だから彼ら(政権)は手が出せなかったんです」
●SELLING HOPE(ポルトガル)
http://work.canneslions.com/promo/?award=2
http://work.canneslions.com/pr/?award=27
2008年のクリスマスシーズンに行われた赤十字のキャンペーンは、それまでの寄付のやり方を変えました。リスボンのいちばんにぎやかなショッピングモールに誕生したそのショップでは、商品に触ることもできなければ、見ることも、着たり、聞いたりすることもできません。ただ、感じることができます。その商品とは、HOPE(希望)。他の店と同じようにハンガー、窓、試着室、販売員、バッグなどが置いてあるのですが、ただひとつの違いは、人々は手ぶらで店を出て行くこと。物を買う代わりに寄付をし、心の中はいっぱいにして。
世界がかつてないほど強くHOPEを必要としていた時期に、このキャンペーンは奇跡的なタイミングで実施されました。初日の売上はモールのトップ10に入るほど。ボランティアを希望する人、初めて募金をする人、そして赤十字のパートナーになる企業も増えました。
●YUBARI(日本)
http://work.canneslions.com/promo/
http://work.canneslions.com/pr/?award=27
夕張市の町おこしキャンペーン。ニュースなどでご覧になった方も多いのではないでしょうか。多額の負債を抱え、2007年に財政破綻した夕張市。しかし夕張には、離婚率が日本一低いという事実がありました。そこで「金はないけど、愛はある」というコンセプトで「夕張夫妻」(いうまでもありませんが負債と夫妻がかかっています)というキャラクターが生まれ、キャンペーンが始まりました。キャラクターのモチーフは夕張メロンです。夕張市役所内には「夫婦円満課」が発足、ここを訪れた夫婦には「夫婦円満証」が発行されます。また、キャラクターソングが発売されたり、キャラクターを使ったグッズやお土産も多数販売されたり、キャラクターが雑誌に連載されたり・・・。100の新聞、100のオンラインメディア、30のTV番組、53100のブログで紹介されました。そして夕張市を訪れる人の数も毎年10%増加しています。しかしなにより重要なのは、夕張の人々が自分たちの街に再び誇りを取り戻したことなのです。
●KHEDE KASRA(レバノン)
http://work.canneslions.com/pr/?award=27
レバノン社会における女性の社会的役割の不平等に社会の目を向けさせるために、このキャンペーンは企画されました。アラビア語は発音するアクセントによって男性向けの言葉になったり女性向けの言葉になったりします。女性向けの言葉になるアクセントを「KASRA」アクセントといいます。
このキャンペーンは、「レバノン社会では普段の会話の中で(男性女性を問わず)いかに男性に向けのアクセントで話すようになっているか」をデモンストレーションする、というもの。単語にKASRAマーク(赤いライン状の印)を付け、そのアクセントで話すと意味が変わる、ということを、ポスターやビルボードなどでデモンストレーションしました。あわせてYouTubeやFacebook、eメールなどデジタルメディアでも展開。2009年3月8日の世界女性の日には、いくつかのTV番組でパーソナリティーがKASRAのバッジをつけました。「ほんのわずかなアクションで世の中は変えられる」「あなたの印をつけましょう」というこのキャンペーンは新聞や雑誌で大きな話題となり、女性に不利なレバノンの裁判システム(離婚訴訟の際9歳以上の子どもの親権を失う、DVがはびこっている、など)についての議論に火をつけました。
●LET IT RING...(ベルギー)
http://work.canneslions.com/promo/?award=2
http://work.canneslions.com/direct/?award=2
ベルギーでは携帯電話で話しながらの運転による事故が増え続けています。その危険性を訴えるには、バーチャルで体験してもらうのがいちばん効果的、というキャンペーンです。その仕組みはこうです。まず、キャンペーンサイトから、体験させたい友人のメールアドレスと携帯電話の番号を入力します。すると、友人にあなたの名前でメールが届きます。友人がメールを開き、そこにあるURLからインターネット上にある一見何の変哲もない、車を運転している目線でつくられた映像を再生。すると、途中で友人の携帯電話がなります。何も知らない友人が携帯電話に出ると......映像の中で、友人は事故を起こしてしまうのです(電話に出ないと事故は起きません)。かなりショッキングな映像です。「電話は鳴らせておきなさい」というのが、このキャンペーンのメッセージです。
他にもたくさんのソーシャルな、優れたコミュニケーションがありました。(例年同様、アムネスティ、グリーンピース、ユニセフなどが多数受賞していました。)会場のホワイエや隣のホールでは、ソーシャルなグラフィック広告だけのエキシビションが開催されていて、また、会場前のビルボードには、今年12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15に向けたIAA国際広告協会の世界共同キャンペーン「Hopenhagen」のポスターが掲出されている......時代の風は確実に、広告業界の進む方向をも変えようとしていると実感しました。
籠島康治 略歴
1968年新潟生まれ。筑波大学大学院教育研究科卒業。広告会社とNGO 2025PROJECTでコピーライター、クリエーティブディレクターとして活動中。共著に「たりないピース」「Love,Peace & Green たりないピース2」「エコトバ」「大丈夫だよ」。
岡崎陽子 略歴
1980年広島生まれ。フィンランド、ハワイ留学の後、上智大学法学部法律学科卒業。広告会社とNGO 2025PROJECTでコピーライター、プランナーとして活動中。共著に「大丈夫だよ」。
2025PROJECT 概要
2025PROJECTは、 2025年に持続可能な社会になっていることを目指して活動しているNGOです。世界と未来を変えていくためのコンテンツを、継続的にプロデュースしていきます。今年のカンヌ国際広告祭では「Tigers Save Tigers!」キャンペーンがPR部門に入賞しました。
http://www.2025.jp/