「皆さんの中で、鈴木さん、高橋さん、田中さん、佐藤さんが苗字の友だちがいる方はいらっしゃいますか?」
会場のほぼ全員が手をあげる質問です。
「では、皆さんの中で障害者といわれる友だちを持つ方はどのくらいいらっしゃいますか?」
今度は、最初の質問で上がった多くの手がスッと下がってしまいました。
現在、「日本で多い苗字ベスト4」の人口はおよそ700万人。一方、日本で障害者手帳を持つ人の数はおよそ730万人と言われています。ひとつの教室にだいたい2〜3人の割合でいるはず。しかし実際には、障害を持つ方との接点が極端に少ないのが現状です。
ハンディのある、なしに関わらず、多様な個性をもつ人たちが自然に混ざり合う社会(ダイバーシティ社会)の実現に向けて、ファッションやデザインという観点から課題解決に取り組むソーシャル・プロジェクト「NEXTIDEVOLUTION(ネクスタイド・エヴォリューション)」代表取締役社長であり、「ピープルデザイン研究所」代表理事の須藤シンジさんにお話を伺いました。
目次へ移動 当事者になって初めて見えた福祉の世界
「皆さんの中で障害者といわれる友だちを持つ方はどのくらいいらっしゃいますか?」 これは、須藤さんが問いかけるおなじみの質問です。
現在3人の息子さんがいる須藤さん。真ん中の息子さんが重度の脳性マヒで生まれてきたのは17年前のことでした。それまでファッションやデザイン、広告宣伝など、華やかな世界で活躍していた須藤さん。はじめて福祉の世界の当事者になったとき、その第一印象はあまりにも「地味」、しかも「暗い」...そんなイメージだったといいます。さらに、「日本は健常者といわれる元気な人と、障害者といわれるハンディキャップを持った人たちが常に分かれているという特徴を持った国だな」と、福祉の行政サービスを受ける側として違和感を感じたそうです。
それまでのファッショナブルで華やかな感覚と、想像すらしなかった、一番華やかじゃない感覚。地味で暗い従来の福祉の概念を壊したい! そのためにこれまで培ったファッションやデザイン、ビジネスのノウハウが役に立つのではないだろうか。それが「ネクスタイド・エボリューション」を立ち上げるきっかけになりました。
「10ヶ月健診で、重度2級の障害だと言われました。息子は一生、自分の足で歩けないと宣告されたわけです。瞬間的にはお先真っ暗になりましたね。でも、その後数ヶ月もたつと、僕は脳天気にも、息子は歩けるようになるんじゃないかと根拠もなく信じるようになっていたのです」
そう言って笑う須藤さん。深夜や明け方に帰宅しては、眠る息子さんの傍らで、彼がマンションの階段を駆け上がるシーンを思い描き続けたと言います。そして2歳半を迎えたある日、
「彼が突然、むくっと起き上がったんです。多忙ながらも、奇跡的に家にいた時でした。人生ってもしかすると、こういう瞬間を目撃するためにあるのかな、と」
あたりまえなことの嬉しさやありがたさを実感したと言います。
「障害児の父として子どもの未来を考えた時に、ハンディキャップを持った人たちが一人で生きていけるにはどうすればいいのか。ハンディを持っていても、いなくても、『混ざっていてあたりまえ』という感覚こそあたりまえな社会になれば、親である僕らがいずれいなくなった時も、街に一人で出て生きていけるのではないかと思ったんです」
目次へ移動 健常者も障害者も抱える「スティグマ」とは
ここで、もうひとつ質問をしてみたいと思います。
「皆さんは障害者やハンディキャップと聞くとどんな気持ちになりますか?」
なんだか特別に感じたり、「どう接していいかわからない」という気持ちになる方もいるかもしれません。心のしこりのようなこの感覚を「スティグマ」と呼びます。一方、障害を持つ方が抱える「一人でちゃんと電車に乗れるだろうか」とか「ジロジロ見られたくない」などの感覚も同じ「スティグマ」です。健康な方も障害を持つ方も抱えている「スティグマ」。これはなぜ生まれるのでしょうか。
日本では小さい頃から障害者と健常者の教室が分けられ、社会に出ても別々に過ごすことが多いと思います。
例えば、車いすの方が電車に乗るシーン。日本では「お客様が乗車中です」というアナウンスと共に駅員さんが3人がかりで乗車の補助を行う場面を見かけます。一方欧米では、近くにいたおじさんが隣の学生に「よし、お兄ちゃんはそっち持って」なんて声を掛け合ってサポートすることが、あたりまえの光景なのだそうです。
欧米では、車いすの方を通りがかりの方がサポートすることはあたりまえになっている(iStockphoto® DaveAlan)
バリアフリー化が進み、行政による福祉サポートが行き届いているかに見える日本。けれど、物理的な段差や障壁をなくすだけで双方の心の中にある「スティグマ」は消えるのでしょうか。障害者と健常者を分け、特別に扱うこれまでの福祉の仕組み。それにより、お互いに関わり合う機会が少ないため、接し方に慣れていないこと。これが「スティグマ」の原因になっていると須藤さんは考えました。
どうしたらダイバーシティ社会を実現できるのでしょうか。
「まず、マイノリティ(社会的少数派)が抱えるさまざまなスティグマを壊す必要があります。たとえば、小さいお子さんがいるお母さんが、『映画に行きたいけれど、子どもがうるさくて迷惑かけちゃいけないから...』っていうあの感じ。あれを壊したい。いいんですよ、迷惑かけて。みんなで手伝えばいいじゃない、という雰囲気づくり。あるいは、子どもの遊び支援を行うNPOとタイアップして映画館のホワイエで子どもを預かる機能を用意しますから、とかね」
「大事なのは、マイノリティの抱えるスティグマや課題をひとつずつ解決し、とにかくこっち側(マジョリティ・多数派のフィールド)に出てきてもらうこと。求めたいのはこの動きなんです」
まずは具体的に混ざり合った環境を作り、双方が接する頻度を増やすことが大切だと言います。
10年先、20年先を見据え、いずれ父となり母となる今の若い世代や、そこから先の子どもたちに届く方法や手段で発信していくこと。それをデザインすることで、よりドラマチックに新しい社会の空気や価値観が生まれる。それはまさに「意識のバリアフリー」となるのではないでしょうか。
目次へ移動 意識のバリアフリーを起こす行動のデザイン
「意識のバリアフリー」をコンセプトにデザインされたモノやコト、そこからの「気づき」をもとに新しい「動き」や「行動」を生み出すこと。その全てを「ピープル・デザイン」と呼びます。少数派と多数派、双方の持つ複雑な課題を解決する手段として、ファッショナブルなアイテムや、映画・スポーツといった楽しげでスティグマを感じさせないコンテンツを使うというのが「ピープル・デザイン」の考え方です。
「ピープル・デザイン」をもとに作られたファッションアイテムやイベントをご紹介します。
たとえばこの靴。見た目はいわゆるバッシュ(バスケットシューズ)。ストリートで人気のこのデザインに、ハンディを持つ方でも使いやすい機能性がつまっているといったら驚くのではないでしょうか? 従来のユニバーサルデザインや障害者のために作られた靴では、扱いづらい靴紐は採用されていませんでした。しかし靴紐の部分こそ、かっこいいデザインポイントとして残したい。そのために、脱着時にかかと部分がスキーブーツのように大きく開く作りになっていて、ハンディがあっても履きやすい仕様になっています。 また、くるぶし部分に付いている足首をギュっと締めるストラップは、かかと部分の留め具がグルっと回転し、締め付けるストラップの方向を左右好みの方向に設定できます。普通ならこういったストラップは、内側から外側に向かって絞り込むデザインになっていますが、このストラップを両足ともに左方向に設定すれば、左利きや右手が不自由な人にも便利です。
この靴は、渋谷や原宿の人気ショップでも販売され、多くのファッション誌に掲載されました。「見た目がかっこいい」、さらに、普通の靴と違う履き方も「珍しくてオシャレ」と、多くのファッションフリークを夢中にしています。ファッションを楽しむ若い世代にとって、デザインが気に入ってこの靴を選ぶときにスティグマはありません。
「障害を持つ人も、渋谷や原宿にこの靴を買いに来て、ついでにほかの買い物やファッションを楽しんでほしいのです。さまざまな個性を持つ人がファッショナブルな街に集まり混ざり合う状態をつくりたい。人種の面ではすでに混ざり合う状態が実現しています。昔は違ったけれど、今では渋谷・原宿に行くとたくさん外国の人とすれ違う。それがあたりまえになっていると思いませんか?」
目次へ移動 ダイバーシティな街を渋谷でつくる
晴天に恵まれた3月16日、渋谷の代々木公園で行われていたのは「TOKYO OUTDOOR WEEKEND」というイベントです。ファッションや音楽など、ここ数年の野外フェス人気でブームに火がついた「新感覚アウトドア」をテーマに開催されました。アウトドアグッズから洋服、色とりどりの雑貨まで、さまざまなアイテムを並べた屋台の数々。春空に響くDJのリズムが会場を盛り上げます。
そんなにぎやかな会場のステージで「渋谷から発信する新しいまちづくり」をテーマに渋谷区議会議員のハセベケンさんと須藤さんのトークショーが開催されました。ハセベさんは「きれいな街は、人の心もきれいにする」をコンセプトに活動する、原宿・表参道発信の清掃プロジェクト「グリーンバード」の代表でもあります。
「僕は地元が原宿、表参道の方なのですが、最近少し、渋谷・原宿の元気がないな、と感じていました」雑誌などで「渋谷・原宿」の文字が踊ることが減ったと感じていたハセベさん。改めて「かっこいい街」とはどんな街だろうと考えていた時に、須藤さんの考える「混ざり合う社会」「ダイバーシティ」というキーワードを知り、強く共感したのだそうです。
ソフトウェア開発会社adobeが、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、日本の18歳以上の青年1000人ずつ、合計5000人に対して行った調査によると、驚くことに30%の回答者が行ってみたい「クールな都市」として「東京」を一位に挙げたのだそうです。東京の中でも特に渋谷エリアは、外国人に対して情報を発信する場として大切なエリアだとハセベさんは言います。
「渋谷っていうのは、日本に住んでいると気がついていないけれど、実は世界の人からみると、そもそも魅力的な街だということですよね。だから日本人よりも、むしろ世界の人たちにアピールできる要素として、「ダイバーシティ」というエッセンスを今すでにある渋谷に加えていくと、世界への発信力がつく」と須藤さん。
目次へ移動 サポートする意思を表明するコミュニケーションチャーム
ハンディのある、なしも含めて「多様な個性が混ざり合う街 渋谷」が当たり前になることを目指し、須藤さんとハセベさんが協力して開発したのが「コミュニケーションチャーム」です。
このチャームは、会話の入り口である"excuse me"(すみません)から、目的がつたえられるような(トイレ)、(病院)、(駅)、(助けて下さい)と、そして最後のお礼の"thank you"(ありがとう)までをわかりやすくデザインした、コミュニケーションツールです。
これを持つことで、「困っていたら私に声をかけてください!」、「私、何でもお手伝いします!」、「ハンディがある方をサポートします!」という心意気を表明するサインになります。けれど、せっかく宣言をしていても、伝えたい方々がこのチャームの存在や意味を知らないのではもったいないですよね。これをデザインしたのは表参道にもお店があるインターナショナルブランドのデザイナー達ですが、実際に作っているのは渋谷区にある4つの福祉作業所の利用者の方々なのです。障害を持った方々の仕事を創出している点もユニークですが、このチャームを作る方が、街でこれを身につけた人を見かけた時、たとえその時困っていなくても、また街へ出る勇気につながるのではないでしょうか。
また、このチャームは、セレクトショップ「SHIPS」の渋谷と原宿のお店、原宿で人気のゴスロリ系ショップ、かわいい系のショップなどで販売され、歌手でファッションリーダーとしても人気のきゃりーぱみゅぱみゅさんが所属するアソビシステムさんや、俳優の要潤さんも応援しているのだとか。
「これを持つだけで助けが必要な人がいっぱいいるのだと気付くようになりました。『手伝いましょうか』と声をかける行為にもスイッチが入りますね」とハセベさん。
街で目の見えない方や、車椅子の方を見かけても、シャイな気持ちが邪魔してなかなか声をかけられない方も多いと思います。それをこういうオシャレなアイテムやファッション、あるいは外国人に人気のある「渋谷」というキーワードでバリアを越えていけるのでは、と須藤さんは考えています。
目次へ移動 「楽しい」や「かっこいい」でつながり混ざり合う空間
イベントに出展した「ピープル・デザイン研究所」のブースでは、コミュニケーションチャームの販売とハンドバイクの試乗会が行われ、たくさんの人で賑わっていました。
「もともとは車いすを使っている方が、自転車のように足を使わず上半身だけで移動するための乗り物でした。当然そこには福祉機器というイメージがついていた。それを街で乗るオシャレな乗り物にしたのがこれです。普通の人が『70年代の車ブーム、80年代のオートバイブーム、2000年代の自転車ブームときたら、次はハンドバイクだよね』と言って乗るみたいな、そんな乗り物として一般に流通すれば値段が安くなるし、しかもこれを本当に必要としている障害を持った方々にとっても、医療用具としてではなく、オシャレな乗り物として街に出てこられる。それもきっかけになるかな、と思います」
本来のハンドバイクの機能より、ファッショナブルなスタイルが評価されて街に広がっていく。まるで、かっこいいモビリティに課題解決の要素が付加されていた、そんな印象で発信していくことがピープル・デザインなのです。須藤さんの言葉を聞いていると、渋谷の街を若い女の子や、おじいちゃんがハンドバイクで気持ちよく走っている光景が浮かんできます。それは、ハンディの有無を意識することもない、ただ、自然に楽しく混ざり合っているイメージ。
「それこそが、普通になる、っていうことだと思うんです」
また、この日会場では、ピープル・デザイン研究所のコーディネートにより、渋谷区にある福祉作業所の利用者の皆さんが就労体験として参加されていました。イベント運営のアースガーデン、LGBT団体の「Queer&Ally」、そしてグリーンバードのみなさんがイベントの運営スタッフとして混ざり合いながら、会場内と周辺のクリーンアップ活動を行いました。
須藤さんが仰っていた「具体的に混ざり合う環境」は、とても和やかで楽しい場として実現していたのが印象的でした。
目次へ移動 ピープル・デザイン×映画
ネクスタイドの活動や、ピープル・デザインの考え方への共感の輪は企業にも広がっています。 障害をもつ人も、健常者も、共に映画を楽しむイベント「feels ~カラダで感じる上映会~ 映画『時をかける少女』」。今回で6回目となるこの上映会は、パイオニア株式会社とネクスタイドのコラボレーションイベントとして銀座にあるパイオニアのショールームで行われています。
ネクスタイドでは、視覚障害をお持ちの方々にも映画を楽しんでもらうために、映像の状況を説明する音声ガイダンスを製作しています。これまでも視覚障害のための音声ガイダンス入りの映画はありました。しかし、どれも公開から数年落ちの旧作で、映画のデータに直接音声ガイダンスが入っているため、一般の方が一緒に見ると音声ガイダンスが視聴の妨げになることもありました。
そこで音声ガイダンスを劇場内にFM電波で送信し、必要な方だけがFMラジオで受信することで、一般の方とハンディキャップを持つ方が同じ空間で映画を楽しめるようにしたのがネクスタイドが提供する音声ガイダンスの特徴です。
この日の作品『時をかける少女』が公開された2010年当時には、新宿や銀座などの映画館で音声ガイダンスつきの上映を行い、公開と同時に一般の方とハンディを持つ方が自然に混ざり合った状態を実現しました。
さらに今回行われたパイオニアとのコラボレーションでは、ネクスタイドの音声ガイダンスとパイオニアが開発した身体で音を感じる「体感音響システム」が各座席で体験でき、まさに「カラダで感じる上映会」となっていました。2013年度からは、イタリアの自動車メーカー、アルファロメオが支援企業に加わり、さらにパワーアップします。
この「体感音響システム」、元々はパイオニア創業者の松本望氏が1972年に糸川英夫博士の「音楽を聞くときは、耳から聞く音波だけじゃなくて、骨で感じる骨伝導という2つの成分を聞いている。つまり音楽は耳だけで聴くものではなく、身体全体で感じるもの」という話を聞き、それをきっかけに開発されました。これを使えば聴覚障害者の方も音やリズムを楽しめるのではないかと1992年に始まったのが、パイオニアの社会貢献事業 "体感音響システム"を使ったコンサート「身体で聴こう音楽会」なのだそうです。
私も体験してみましたが、例えば、ドアが勢いよく閉まるシーンでは、椅子に敷いたクッションから瞬間的な振動が。まさに「バタン!」という衝撃が感覚として伝わり、思わずビクッとしてしまいました。
「身体で聴こう音楽会」の活動は、今回の上映会の他、福祉施設や自治体などと協力し、年間約30回のイベントを開催しています。運営は、事務局以外は全てボランティアで集まった社員と、その家族の方々に支えられているのだとか。活動について、パイオニア株式会社「身体で聴こう音楽会」事務局の山下桜さんにお話を伺いました。
「ボランティアに参加する方は、『自分がしてあげる』ではなく『自分が何かもらえる』といって参加してくれています。体感音響を体験して下さったお客さんの中には「音がきこえた!」と言って涙を流される方もいらっしゃるので、逆に感動をもらえたという声も多いです」
この活動をきっかけに視覚障害を持つ方へのサポートに興味をもったボランティアスタッフが、独学で制作した点字パンフレットを用意してくれることもあるそうです。
実は山下さんご自身も、障害を抱える家族をもつ一人でした。
「小さい頃から周囲の目というか、障害者を見る目を強く肌で感じていました」
障害者があまり街に出てこない社会や、障害者を見る偏見の目がすごく嫌だったと言います。
「世の中の偏見の目が無くなってほしいと小さい頃から思っていました。私も須藤さんと同じく、混ざり合う社会を目指しているので、一般の方や時には子どもたちも、障害をもつ方と一緒に楽しめる場をつくれることがとても嬉しいです」
上映会に参加していた方にもお話を伺いました。 事故で22歳の時に視覚を失ったという大堀悠佳さん。「音声ガイダンスで情景が活き活きと浮かんできました。ぜひ、普通の見える方も目を閉じて体験してほしいです」と感想を聞かせてくれました。
普段は盲導犬と共に暮らしているという大堀さんですが、バリアフリーにより段差がなくなりすぎて困ることもあると言います。盲導犬との歩行では道を歩く時は歩道と車道の間に2cmくらいの段差が無いと、盲導犬がそこで止まってくれないため、かえって危ないのだそうです。バリアフリーによって問題解決になることもあれば、別の問題を生むこともあるのだと知りました。
目次へ移動 新たな社会の空気をつくる
一口に障害者と言ってもいろいろな人がいます。身体的なもの、知的なもの、その障害の種類や程度は様々です。さらにダイバーシティという広い視野で世の中を見渡してみると、医学的な障害者ではないけれど、数の上では少なくて、かつ何らかの障害に困っている人がたくさんいることに気づきます。一時的に日常生活に制約が生じる妊娠中の女性や赤ちゃんを抱えた女性、高齢者、それにLGBTと言われるレズ・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーといった性的少数派の人たちもそうです。どんな人でも、いずれは老年期を迎え、高齢者となります。そう考えると私たちは、誰でも一時的な障害者、「課題多きマイノリティ」になりえるのではないでしょうか。
ゆるやかに生まれ、ゆるやかに変化していく社会の空気や価値観。須藤さんは今も未来の息子さんの姿をイメージしています。
「いつも心に浮かぶのは、息子3人がそれぞれ自立し、支えあって生きている未来。それぞれ子どもなんか連れていたりしてね。もちろん次男も自立してこの社会で生きている。そんなイメージなんです」
「環境問題や温暖化だって、以前は誰も問題にしていませんでした。けれど今では誰もが耳にする言葉です。『ダイバーシティ』も少しずつ広まっている考え方で、徐々に混ざり合う社会の実現に向かっています。いつか世の中が、何らかの不便を抱えるマイノリティの存在に、そしてそういう方達に自然に声をかける行為に、突然寛容になる瞬間がやってくると思うんです」
いつかそんな時代がやってきたとき、振り返ってみたら「あの時が始まりだったね」と今日この日を思い出すかもしれません。そう、今この瞬間が、未来の価値観をつくるターニングポイントになるのではないでしょうか。
関連URL
ネクスタイド ・エヴォリューション
http://www.nextide.net
ピープルデザイン研究所
http://www.peopledesign.or.jp
グリーンバード
http://www.greenbird.jp
身体で聴こう音楽会
http://pioneer.jp/citizen/karadadekikou/
取材・文:長谷部智美(Think the Earth)
写真:重松賢、岩崎祐